インドネシアでのオンライン上での名誉毀損の事案

2017/11/11

インドネシアの警察

インドネシアではSNSの普及により選挙や政治活動において相手を貶めることを目的とした偽情報の流布が行われるようになったことで、オンライン上での名誉毀損に関する告訴のニュースを目にするようになりました。

名誉毀損で訴えるという事案が増えたインドネシア

e-KTP(Kartu Tanda Penduduk 住民登録証)電子化予算Rp 5.9 triliumのうちのRp 2.3 triliun(2.3兆ルピア=200億円)横領疑獄でインドネシア中から悪役として注目されてされている元国民議会議長(Ketua Dewan Perwakilian Rakyat)のセティア・ノファント氏ですが、その後の汚職撲滅委員会KPK(Komisi Pemberantasan Korupsi)から個人資産の調査や、メディアやSNSを中心としたネット上でのバッシングにもかかわらず、未だに決定的証拠を発見されず、逮捕されることもなくむしろ強気の姿勢を崩さないことから、この人Orang Sakti(超人・不死身の人・マジシャン)じゃなかろうかという、なかばあきれた声すら上がっています。

そして今回、これまで自分を批判してきた9人の関係者と32のWEBサイトをPencemaran Nama Baik(名誉毀損)で訴えるという反撃に出たのですが、ここ最近インドネシアではこのPencemaran Nama Baikという言葉を頻繁に目にするようになり、公共の面前での冒涜や公共メディアでの批判はもちろん、FacebookやTwitterでの発言やツイート、そしてWhatsAppやLINE上でのやりとりまで名誉毀損の事案として取り上げられます。

民事(Perdata)と刑事(Pidana)の違い

2ちゃんねるやTwitter上での発言に対して「通報しますた」というのは日本では良く目にしますが、発展途上国と思われているインドネシアでは、SNSを中心としてネットの日常生活への浸透度合いは日本よりはるかに高いため、オンライン上での名誉毀損が問題視されるようになったのは、それだけネット社会が成熟してきたことの表れなのかもしれません。

先日友人のインドネシア人の会社では、社員が不当解雇で会社を労働省DISNAKER(Dinas Tenaga Kerja dan Transmigrasi)に訴えるという事案が発生したのですが、この元社員が友人達に送ったWhatsAppのメッセージの中に、経営者をイスラム教的にFワードに該当する犬とか豚とかいう言葉でDisったくだりがあり、これを知った経営者が激怒して、今度はこの元社員をPencemaran Nama Baik(名誉毀損)で訴えました。

名誉毀損は民事(Perdata)と刑事(Pidana)があり、今回弁護士を通じて刑事訴訟として訴えた旨通告され、Polda Metro Jaya(ジャカルタ警察庁)からSurat Perintah Dimulai Penyidikan(捜査令状 SPDP)が届けば、この元社員は警察に出頭する義務が生じるのですが、いずれにせよ労使問題がこじれると訴える側も訴えられる側もお金と時間がかかり、双方ともに疲弊する前に手打ちというのが一般的です。

ちなみに訴えられた側が有罪確定した場合の刑事罰は、最大で懲役6年または罰金1Milyarという重いものです。

  • Pidana Penjara dan Denda terkait Pasal Pencemaran Nama Baik dalam UU ITE

冗談と名誉毀損の境目

例えば自分が友達連中に土曜日の夜に「クラブに遊びに行こうよー」と誘った際に友人の一人Aが「Bは行かないよねー、お前ホモ(この言葉自体が今は日本でNGなのかもしれませんがインドネシアでは普通に使われます)だから」というような会話の流れの中でメッセージがあったとします。この場合

  1. 発言が事実に基づくものかどうか⇒事実ではない
  2. 発言内容と発言された状況の適合性⇒AとBは仲がよい関係
  3. 発言によってどれくらいの被害を被ったか⇒一笑に付す程度

ということであればこの発言はあくまで冗談であり、そもそもBはAを訴えるわけはないのですが、もしこれがAとBとの間の秘密の事実であり、この発言を自分に聞かれたことでBが著しい精神的苦痛を被った場合は、冗談では済まされず下手すると名誉毀損の事案になります。

日本でLINE上での陰湿ないじめとかは、いじめられた側が名誉毀損で訴えれることができればいいと思うのですが、訴えるためにはいじめられたという証拠が必要であり、いじめっ子達が裏でやりとりしていたLINEのコピー等を入手する必要があります。

先の従業員を解雇した経営者は、どこからか社員間でやりとりしていたLINEのコピーを入手し、証拠として警察に提出したため、もし裁判(Pengadilan)になった場合、このLINEのコピーを誰から入手したかを問われることになり、そうなるとLINEを経営者に漏らした社員は証人(Saksi)として出廷することになり、今度はこの社員が裏切り者として他の社員から糾弾されるというややこしい自体に発展することが予想されます。